借金返済を目的とした訴訟|債務整理が計画倒産の可能性あり


第1 請求

1 Cと被告スパイススタイルアンドアソシエイツ(以下「被告スパイススタイル」という。)との間で平成14年12月31日付けにて締結された別紙株式目録記載1の株式を発行の目的とした新株引受権の贈与契約を否認する。
2 Cと被告Aとの間で平成14年12月31日付けにて締結された別紙株式目録記載2の株式を発行の目的とした新株引受権の贈与契約を否認する。
3 Cと被告Bとの間で平成14年12月31日付けにて締結された別紙株式目録記載3の株式を発行の目的とした新株引受権の贈与契約を否認する。
4 被告スパイススタイルは,原告管財人に対し,8100万円及びこれに対する平成17年10月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
5 被告Aは,原告管財人に対し,7650万円及びこれに対する平成17年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6 被告Bは,原告管財人に対し,5625万円及びこれに対する平成17年10月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

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第2 事案の概要

本件は,原告管財人が,Cから被告らへの新株引受権の贈与につき故意否認及び無償否認を理由として否認権を行使し,贈与目的物である新株引受権の価額償還(被告スパイススタイルにつき8100万円,被告Aにつき7650万円及び被告Bにつき5625万円)並びにこれらに対する本訴状送達の日の翌日である,被告スパイススタイル及び被告Aについて平成17年10月6日,被告Bについて同月13日から,それぞれ支払済みまで,被告スパイススタイルについて商事法定利率年6分,被告A及び被告Bについて民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨より容易に認められる。)

(1) 当事者及び本件訴訟の経緯
ア原告管財人
原告管財人は,平成18年6月26日午後5時に破産手続開始決定(当庁平成18年(フ)第2194号)がなされたCの破産管財人である。
イ被告スパイススタイル
被告スパイススタイルは,平成11年10月にCを代表者として設立された経営・財務・労務コンサルタント業等を目的とする株式会社である。
Cは,平成16年12月24日まで,被告スパイススタイルの代表取締役に就いていた。
ウ被告A及び同B
被告AはCの妻である。
被告BはCと被告Aの子(平成6年9月26日生まれ)であり,C及び被告Aの親権に服している。
エ訴外株式会社スパイスコーポレーション
訴外株式会社スパイスコーポレーション(以下「スパイスコーポレーション」という)は,平成2。年6月にCを代表者として設立されたコンピューター・周辺機器の販売及びメンテナンス等を目的とする株式会社である。
オ本件訴訟の経緯
本件訴訟は,りそな銀行が原告として,スパイスコーポレーションに対し貸金返還訴訟,Cに対しスパイスコーポレーションの貸金についての連帯保証債務支払訴訟,本件被告らに対し詐害行為取消訴訟を併せて提起したところ,スパイスコーポレーション及びCについて弁論が分離され,その請求をいずれも全部認容する判決が確定した。
その後,本件被告らに対する詐害行為取消訴訟における債務者であるCについて上記破産手続開始決定がされたことから,破産法の定める手続により,原告管財人がりそな銀行の本件訴訟の原告たる地位を承継した。
(2) 否認権の行使
原告管財人は,平成18年9月12日の本件第5回弁論準備手続期日において,以下の贈与契約(以下,贈与契約を併せて「本件贈与行為」といい,目的物である新株引受権を併せて「本件新株引受権」という。)につき,破産財団のために否認するとの意思表示をした。
@ Cと被告スパイススタイルとの間で平成14年12月31日付けで締結された別紙株式目録記載1の株式を発行の目的とした新株引受権の贈与契約
A Cと被告Aとの間で平成14年12月31日付けで締結された別紙株式目録記載2の株式を発行の目的とした新株引受権の贈与契約
B Cと被告Bとの間で平成14年12月31日付けで締結された別紙株式目録記載3の株式を発行の目的とした新株引受権の贈与契約

2 争点

(1) 本件贈与行為の時期
(2) 本件贈与行為の詐害性
(3) Cは,本件贈与行為の際,債権者を害することを知っていたか(故意否認−Cの詐害の意思)。
(4) Cは,平成15年2月末日ころ,支払停止又は支払不能の状態であったか(無償否認−Cの支払停止・支払不能状態)。
(5) 被告らは,本件贈与行為の際,本件贈与行為が債権者を害することを知らなかったか(被告らの善意)。
(6) 被告らが価額償還すべき額

3 争点に関する当事者の主張

(1) 本件贈与行為の時期〔争点(1)について〕
(原告管財人の主張)
本件贈与行為は,平成14年12月31日になされた。
贈与契約書(甲30の3)上も,アビックス株式会社(以下「アビックス」という。)の証券取引法上及び商法上の開示(丙1・103頁)においても,平成14年12月31日とされている。
被告らは,平成14年4月ころであると主張するが,便宜的に平成14年12月31日になされたというのでは説得力もなく,被告らの主張に沿う証拠もない。
(被告スパイススタイルの主張)
アCが被告スパイススタイルに対し,別紙株式目録記載1の株式を発行の目的とした新株引受権を贈与したことは認めるが,本件贈与行為が平成14年12月31日になされたとの主張は否認する。
イ平成12年年末から平成13年春にかけて,Cはアビックスを退社する方向で検討しており,同年2月17日の取締役会において,本件新株引受権を被告らに譲渡することの承認を得た。
しかし,この時点では,譲渡対価をいくらにするのかが分からず,アビックス側における主幹事証券会社や監査法人の了解も必要であったことから,これらの問題が解決した段階で,正式に譲渡することとなった。
その後,アビックスの税務に関与していた公認会計士のD(平成16年2月から被告スパイススタイルの代表者でもある。)に対し,本件新株引受権の譲渡対価について相談し,平成14年4月に,CはDから本件新株引受権には価値がないとの報告を受けた(乙14の2)。
そこで,平成14年4月,Cは被告らに本件新株引受権を贈与した。
後にアビックスから本件贈与行為の承認を得たが,主幹事証券会社の指導により,アビックスの記録上は,平成14年12月31日譲渡の取扱いとされたのである。
大晦日である同日に贈与がなされることはありえない。
(被告A及び被告Bの主張)
アCが被告Aに対し,別紙株式目録2記載の株式を発行の目的とした新株引受権を,被告Bに対し,別紙株式目録記載3の株式を発行の目的とした新株引受権を,それぞれ贈与したことは認めるが,本件贈与行為が平成14年12月31日になされたとの主張は否認する。
イ本件贈与行為は,平成14年4月ころである。
本件新株引受権の譲渡は平成13年2月ころから話題に上っていたのであり,Cを含むアビックスの創業メンバー間の経営方針の対立やアビックス新株引受権の価格評価の大幅な遅延から,贈与形態による譲渡と決めたのが平成14年4月ころとなったのである。
原告管財人は,本件贈与行為が平成14年12月31日になされたと主張するが,大晦日に贈与を行うというのは不合理というほかない。
上記日付けは,アビックスの記録としての日付けにすぎないのである。
ウ本件贈与行為に至る具体的経緯
(ア) Cは,アビックスの創業期からの役員であったところ,創業メンバー間の経営方針の対立の中,アビックスの経営陣から抜けることを決め,その所有する新株引受権を自己の関係者に移転・整理することを考えた。
(イ) Cは,アビックス取締役会に,その所有する新株引受権を株式会社スパイスホールディングス(現:被告スパイススタイル),被告A及び被告Bに譲渡することを申し出,アビックス取締役会は,平成13年2月にはこれを了承した。
しかし,新株引受権の評価の問題並びにアビックスとしては主幹事証券会社及び監査法人との協議といった内部的問題があったことから,それらが解決した段階で正式承認の運びとなった。
(ウ) Cは,平成13年6月28日,アビックスの取締役を退任した(乙2)。
(エ) Cは,平成14年4月,アビックスから新株引受権の価格に関する報告を受けた。その内容は,市場価値はなく有償譲渡できないというものであった。
(オ) これを受け,Cは,その所有する新株引受権をおおむね3等分し,被告スパイススタイルに36株分,被告Aに34株分,被告Bに25株分を贈与することとし,同時にアビックスの代表取締役社長であるEに対し,平成13年2月の取締役会における確認事項に基づき,新株引受権譲渡に関する正式な承認を依頼した。
Eからは,主幹事証券会社の指導のため,アビックスの記録上の取扱いは平成14年12月まで待って欲しいとの話があった。
(カ) 平成14年12月,主幹事証券会社の了解を得て,本件新株引受権の贈与がアビックスに記録された。
(2) 本件贈与行為の詐害性〔争点(2)について〕
(原告管財人の主張)
ア平成14年12月31日当時,りそな銀行のスパイスコーポレーションに対する貸付残高は合計4億1909万円であり(以下,りそな銀行のスパイスコーポレーションに対する貸金債権を「本件貸金債権」という。),Cは,本件貸金債権について連帯保証人であった(以下,Cの連帯保証債務を「本件保証債務」という。)。
(ア) スパイスコーポレーションは,平成13年3月期の決算において当期損益が赤字となり,平成14年3月期には売上高が前期比で16パーセントあまりも落ち込む状態となった。
そして,平成15年3月期の決算で大幅な赤字を計上することが確実となっていた同年2月25日,あさひ銀行(現:りそな銀行)に対して,1年間の元本の借金返済猶予(リスケジュール)の申入れをした(甲17)。
また,平成15年8月,平成16年3月,同年10月にも,スパイスコーポレーションはあさひ銀行に対して,リスケジュールの申入れをした。
(イ) 連帯保証人は主債務者と並び第一次的全額弁済義務を負う以上,連帯保証人の行為が債権者を害するかどうかの判定に際しては,主債務者の弁済資力の有無は斟酌されない。
被告らはスパイスコーポレーションの経営に問題がなかったなどと主張するが,Cの本件贈与行為が否認権行使の対象となるかどうかとは関係がない。
イスパイスコーポレーションの上記債務超過の状況からして,設立以来,代表取締役を務め,連帯保証人でもあったC自身も,早晩,多額の本件保証債務の履行請求を受けることが確実な立場にあった。
ウCは,本件贈与行為当時から現在まで不動産等を所有しておらず,本件新株引受権のほかに,少なくとも本件保証債務の責任財産たるようなめぼしい財産は特に有していなかった。
なお,Cが居住するCの父F名義の不動産や,その他スパイスコーポレーション所有の不動産は,いずれもその価額を超える担保権が設定されている。
そして,本件貸金債権を被担保債権とする根抵当権は,いずれもりそな銀行が後順位であるか,その極度額が債権の一部の範囲にすぎず,りそな銀行の本件貸金債権を満足させるにはほど遠かった。
エ本件贈与行為当時,本件新株引受権の価値は1権利当たり100万円であった。
(ア) 本件新株引受権は,1株当たり20万円(行使価額)の払込みにより新株の発行を受けられる権利であるから,新株引受権自体の評価は,当時における株式の価額から20万円を控除した金額である(乙3,14の2,丁2参照)。
本件贈与行為の前後である,平成12年12月21日付け,平成13年3月31日付け及び平成15年3月29日付けのアビックス新株発行(有償第三者割当増資)での株式発行価額は,1株当たり120万円から140万円である(丙1・51頁)。これによれば,本件贈与行為当時においても,アビックス株式の価額は,少なくとも1株当たり120万円であったとみるのが相当である。
また,株価算定書(甲29)によれば,平成12年6月30日時点において,アビックス株式の1株当たりの株価は,DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)方式による算定の結果,120万円と評価されている。
したがって,本件贈与行為当時の本件新株引受権の価額は,株式価額120万円から行使価額20万円を控除した100万円である。
(イ) 株価一覧表(乙3,14の2)は,相続税評価基準に当てはめた場合における評価額を算出したものにすぎず,実勢価額を算出したものではない。
G公認会計士作成に係る評価書(丁2。以下「G評価書」という。)も,本件贈与行為前後の新株発行について検討していない上,収益還元方式を排斥した理由も恣意的と思料され,信用できない。
また,G評価書では,本件贈与行為直後かつ直近である平成15年3月29日付けの新株発行(1株当たり140万円)について具体的な言及がなされていないし,ほかの新株発行についても,「純粋な投資としてではなく,安定した取引関係を望んだことによる資本参加という意味合いが濃い」とされているが,本件贈与行為前後の新株発行では出資者に投資事業組合もおり,平成13年3月31日付け新株発行では総額4320万円,平成15年3月29日付け新株発行では総額1億3580万円という巨額な出資がされているところ,投資事業組合を含め,出資者が無価値な新株を高額で買い受けたとは考えられない。
(ウ) 平成14年5月から9月にかけ,スパイスコーポレーションはその保有するアビックス株式を担保に,りそな銀行に融資を申し込んでいたのであるから,スパイスコーポレーション自身が,アビックス株式は高い価値を有するとの認識を持っていた。
実際,スパイスコーポレーションは,あさひ銀行に対して,アビックス株式の株価を,1株当たり120万円とする株価算定書(甲29)を提出している。
上記株価算定書(甲29・平成14年4月23日付け)は,被告A及び被告Bが本件新株引受権の無価値であることを示す証拠として提出する株価一覧表(乙3・平成14年4月15日付け)と作成時期がほとんど同一である。
(エ) Cは,スパイスコーポレーションの代表者であったのだから,本件贈与行為当時,アビックスの株式が公開された場合には,極めて高い価値を有するものと認識していたのであり,その新株引受権についても,将来値上がり確実な高い価値を有するものと認識していたことは明らかである。
そもそも,Cがこのような認識を有していたのでなければ,被告Aや本件贈与行為当時7歳か8歳であった被告Bに本件新株引受権を贈与するはずはない。
オさらに,本件贈与行為は無償行為であって,それのみで詐害性が強く推認される。
カしたがって,本件贈与行為が,破産債権者に対して詐害性を有することは明らかである。
(被告スパイススタイルの主張)
アスパイスコーポレーションの平成13年3月期の損益及び平成14年3月期の売上高並びに平成14年5月にあさひ銀行に対する約定返済が延滞したことは認める。
その余の原告管財人の主張は,否認ないし争う。
イスパイスコーポレーションの業績等
当時スパイスコーポレーションに経営上の問題は生じていない。
平成14年5月の延滞は,あさひ銀行株式の購入を巡るトラブルに端を発するもので,スパイスコーポレーションの経営上の問題とは関係がない。
ウ本件新株引受権には財産的価値がないこと
(ア) DCF法を採用した株価算定書(甲29)は,アビックスの取引先企業であるトヨタ自動車株式会社(以下「トヨタ」という。)にアビックスの新株を引き受けてもらうという目的のもとに意図的に作成されたものである。
このときは100万円以上での株価算定という結論が先行していたのであって,DCF法の最も重要な要因である事業計画の策定についても,アビックスは当初の事業内容を合理的理由なく変更しているばかりか,その内容も極めて楽観的なものであった。
DCF法単独で株価算定するという方法も,極めて異例であり,多くの裁判例も併用方式を採用している(丙4・15頁)。
したがって,上記算定書をもって本件新株引受権の評価を決めるのは不当である。
(イ) 本件新株引受権に価値がないことは,G評価書によれば明らかである。
平成15年3月29日付けの1株当たり140万円での新株発行を勘案していない点については,安定した取引関係を望んだ資本参加としての新株発行であり,上記算定書の影響を引きずった発行価額となっているから,本件新株引受権の評価に際しては,上記新株発行は捨象するのが妥当である。
(被告A及び被告Bの主張)
アスパイスコーポレーションの平成13年3月期の損益及び平成14年3月期の売上高は認めるが,リストラ断行の結果であり,当時スパイスコーポレーションの業績は悪化していない。平成14年5月にあさひ銀行に対する約定返済が延滞したことについては,あさひ銀行株式の購入を巡るトラブルに端を発するものであり,スパイスコーポレーションの業績悪化とは無関係である。スパイスコーポレーションは,債務超過の状態になかった(乙7)。
スパイスコーポレーションのリスケジュールの申入れは認めるが,これはあさひ銀行との協議と指導の結果である。
Cが本件保証債務を負っていたこと及びCが不動産を所有していないことは認める。
その余の原告管財人の主張は,否認ないし争う。
イスパイスコーポレーションの業績等
(ア) スパイスコーポレーションの決算によると,売上げが,第11期(平成12年4月1日から平成13年3月31日まで)では30億4480円,第13期(平成14年4月1日から平成15年3月31日まで)では17億4470円と半減しているが,これは店舗リストラ(27拠店→14拠店)のためであり,社員数半減(101名(正社員46名)→46名(正社員26名)),月額経費圧縮(5744万円→3596万円)などから,不採算部門を切り離し,軌道に乗れば,販売収支は改善し,単年度黒字も十分望める状況であった。
(イ) 銀行からの借入れは,平成13年3月31日当時,12億2300万円であるのに対し,平成15年3月31日当時では9億3700万円と,大幅に圧縮した。
平成14年12月当時でも,9億9100万円である。
ただし,長期と短期のバランスについてみれば,平成13年3月31日当時では,長期4億7400万円,短期7億4900万円であったものが,平成15年3月31日当時では,長期3億400万円,短期6億3300万円となっており,短期借入の割合が高いことが,経営圧迫の原因となっていた。
(ウ) スパイスコーポレーションは,平成14年5月にあさひ銀行に対する約定返済金を一時延滞したが,これは,あさひ銀行の株価の買い支え要請による1億円の貸付けについて,スパイスコーポレーションがあさひ銀行株式の購入を見送ったという,あさひ銀行とスパイスコーポレーションとの間の極めて特殊な事情によるものである。
ウ本件新株引受権には財産的価値がないこと
(ア) 平成14年4月時点でのアビックスの新株引受権の評価は,0円であった(乙3)。
当時のアビックス株式の株価は,
@ 平成13年3月期の決算データ(乙14の1ないし4)によれば
類似業種比準価額10万7705円
純資産価額18万7420円
A 平成14年3月期の決算データ(乙15の1ないし3,16)によれば
類似業種比準価額18万3164円
純資産価額18万9142円
相続税評価額16万4362円
というものであり,いずれによっても行使発行価額の20万円を下回っていた。
そこで,Cは,上記のとおり新株引受権の算定をしたアビックスの会計顧問という専門家のアドバイスに基づき,本件新株引受権を有償譲渡ではなく贈与したのである。
(イ) G評価書も,平成14年12月31日当時の本件新株引受権の評価は0円としている。
G公認会計士がDCF法を採用しなかったのは,計算の基礎となる経営計画の数値が実績とかけ離れ,信憑性に欠けるためであり,DCF法排斥が恣意的であることはない。
また,アビックス新株引受権の売買事例は,平成14年12月31日に近い時点では存在しない。
これ以前の第三者割当増資も,直近とはいえない上に,日本公認会計士協会の作成した「株式等鑑定評価マニュアル」(乙36)の基準によれば取引事例として採用することができない。
これ以後の第三者割当増資については,上記「株式等鑑定評価マニュアル」によれば,将来の売買事例として,そもそも取引事例の対象とならない。
(ウ) アビックスは,平成14年3月決算において,経常利益8030万円,当期利益1403万円となり(乙15),平成14年3月にようやく黒字になった会社である。
現物株の評価は,類似業種比準価額が1株14万8610円,純資産価額が1株21万1620円と評価された(乙16 。これを,株式分割() 上場前に3分割,上場後に5分割)で15分
割すれば,1株当たり約1万円ないし1万4108円である。
(エ) 原告管財人は,株価一覧表(乙3,14の2)を相続税評価基準に当てはめた場合における評価額というが,まったくの誤解である。
(オ) したがって,本件贈与行為当時,本件新株引受権には財産的価値がない以上,本件贈与行為には詐害性がない。
(3) 故意否認−Cの詐害の意思〔争点(3)について〕
(原告管財人の主張)
アCは,本件贈与行為の際,被告スパイススタイルの代表取締役の地位にあり,また,被告A及び被告BはCの妻子である。特に,被告Bは,平成6年9月26日生まれで,現在においても未成年である。
イ本件貸金債権及び本件保証債務に関する経緯に加え,無償行為で詐害性が強く推認される本件贈与行為を上記贈与当事者間で行ったのであるから,Cが本件贈与行為によって債権者を害する結果が生じることを認識していたことは明白である。
(被告スパイススタイルの主張)
アCが,本件贈与行為の際,被告スパイススタイルの代表取締役であったことは認める。その余は,否認ないし争う。
イCは,会計専門家の検討を経て,本件新株引受権を無価値と認識していたのであるから,Cには債権者に損害を与えるなどという認識は持ち得なかった。
(被告A及び被告Bの主張)
アCと被告A及び被告Bとの親族関係並びに被告Bの生年月日は認める。
その余は,否認ないし争う。
イCに詐害の意思はなかった。
(ア) スパイスコーポレーションの経営状況と本件新株引受権の譲渡の件は全く別に推移してきたのであり,Cは本件新株引受権の価値がないと聞いていたことから,そのように認識していた。
仮に,Cに債権者を害する意識があったのであれば,スパイスコーポレーション及びCの所有していたアビックス株式を処分したはずである。
しかし,これらはアビックスの上場と同時に売却処分され,スパイスコーポレーション分はその債権者に任意配当されたし,C分は原告管財人に引き渡された。
(イ) また,平成14年12月当時,スパイスコーポレーションの業績に大きな問題はなく,むしろ,業務のスリム化とリストラをすべく奔走していた時期であった。
当然,Cは,債務整理など全く考えておらず,上記のアビックスの創業メンバー間の経営方針の対立やアビックス新株引受権の価格評価の大幅な遅延といった経過を包括的に考察すると,Cに財産的危機感などは全くない。
(ウ) さらに,最終的に債務整理を開始するに至ったのは,平成14年12月から2年も後のことである。
日々の経営に奔走している債務者が,2年後の債務整理を見越して贈与を行うとは考えられない。
(エ) 本件新株引受権は無価値であることから,税務申告等を考慮すると,贈与という形式をとらざるを得なかったのであり,贈与という形式のみをもってCに詐害の意思を認めることはできない。
(4) 無償否認−Cの支払停止・支払不能状態〔争点(4)について〕
(原告管財人の主張)
スパイスコーポレーションは,平成15年2月末日の資金繰りと銀行返済に行き詰まり,同月25日には,メイン銀行であるあさひ銀行に対し,同日付けの「元金返済猶予のお願い」と題する書面(甲17)において,同月末日から翌平成16年1月末日までの1年間にわたり,元金返済の猶予を依頼した。上記書面の「資金繰りと銀行返済」の項によれば,当時未だ元金返済期限が到来していないものについても,返済のめどが立たないごとくであり,「期中でその期限が到来するものについては,期限を平成16年2月末日に延長していただきたい」と記載しており,この状態は正に支払停止又は支払不能の状態である。
Cは,スパイスコーポレーションの代表取締役として,スパイスコーポレーションの金融機関に対する借入金債務のほぼ全部について連帯保証していた。
したがって,C個人としても,支払停止又は支払不能の状態であったというべきである。
(被告スパイススタイルの主張)
ア争う。
イスパイスコーポレーションは支払停止・支払不能の状態になかった。
(ア) スパイスコーポレーションは,「元金返済猶予のお願い」(甲17)で,あさひ銀行に対して債務の支払方法の変更を申し入れたにすぎず,その後,あさひ銀行から指導された方法に従って履行しているから支払停止の状態にない。
仮に,スパイスコーポレーションが支払停止の状態にあったとしても,支払停止と破産宣告においては因果関係が必要であり,支払停止は破産手続開始時まで持続していなければならない。スパイスコーポレーションは後に支払を再開しており,支払停止と破産宣告に因果関係がない。
(イ) 平成15年1月には,スパイスコーポレーションは,あさひ銀行から信用保証協会の保証付き融資を受けているのであり(甲12,15,乙11),債務弁済の信用力を有していた。そして,スパイスコーポレーションは後に支払を再開しているのであるから,支払不能とはいえない。
仮に,この時点でスパイスコーポレーションが支払不能であったなら,あさひ銀行に対する弁済も否認の対象となってしまう。
ウCは支払停止・支払不能の状態になかった。
主債務者であるスパイスコーポレーションが支払停止の状態にあっても,別人格である連帯保証人Cが支払停止状態にあったとはいえず,明らかな論理の飛躍がある。
債権者はCに支払を請求していないし,Cが支払停止に当たる行為をしたこともない。
(被告A及び被告Bの主張)
争う。
スパイスコーポレーションは,平成14年8月には商工中金から新規貸出しの長期資金5000万円を,同年9月には三井住友銀行から新規貸出しの短期資金5000万円を調達している(乙5)。
「元金返済猶予のお願い」と題する書面(甲17)は,あさひ銀行の主導によるものであって,これをもってスパイスコーポレーションの支払停止及び支払不能を表すものではない。
(5) 被告らの善意〔争点(5)について〕
(被告スパイススタイルの主張)
被告スパイススタイルは,本件贈与行為当時,本件贈与行為が債権者を害することを知らなかった。
(被告A及び被告Bの主張)
被告A及び被告Bは,本件贈与行為当時,本件贈与行為が債権者を害することを知らなかった。
被告A及び被告Bはスパイスコーポレーションの経営状態に関知しておらず,Cすら詐害の意思を有していないのであるから,なおさら被告A及び被告Bが債権者を害することを知っているはずがない。
(原告管財人の主張)
いずれも否認する。
本件贈与行為当時,被告スパイススタイルはCが代表者であったし,被告Bについても,C及び被告Aが法定代理人親権者である。
そして,被告Aは,被告スパイススタイルの取締役である。
これらに,本件贈与行為は1枚の贈与契約書(甲30の3)によりなされていることを併せ考えれば,被告らは,本件贈与行為当時,本件贈与行為が債権者を害することを当然に知っていた。
(6) 被告らが価額償還すべき額〔争点(6)について〕
(原告管財人の主張)
ア(ア) 被告らは,本件新株引受権による新株引受人として,払込等を行い,それぞれの本件新株引受権の数に相当する株数の株式を取得した。
その後の株式分割により,被告らが所有していてしかるべきアビックスの株式数は以下のとおりである(以下,本件新株引受権の行使により被告らが所有していてしかるべきアビックス株式を「本件株式」という。)。
@ 被告スパイススタイル540株
A 被告A 510株
B 被告B 375株
(イ) アビックスは,平成17年4月21日,ジャスダック市場に上場した。
(ウ) 被告らは,平成17年4月21日から同年7月7日ころまでの間に,本件株式を証券会社を通じて売却した。
なお,Cも,平成17年3月当時に所有していたアビックス株式180株を,上記期間中にすべて売却した(甲25)。
(エ) アビックス株式の株価は,本件訴訟提起時(平成17年9月28日)は1株15万円であり,否認権行使時(平成18年9月12日)は6万9800円であった。
イ本件においては,概略,被告らは,本件株式を約3億5000万円で売却し,現金を手にしたが(平成17年4月21日のアビックス株式上場当日及びその直後。甲41,42 ),その後株価の下落により,本件株式の価額は,本件訴訟提起時には約2億円となり,否認権行使時には1億円以下となった。
被告らが本件株式の処分によって具体的に得た金額(処分費用控除)は以下のとおりであり,総額3億4605万5997円である。
@ 被告スパイススタイル1億1484万8189円
A 被告A 1億3230万5000円
B 被告B 9890万2808円
ウ否認権が行使されたときは,目的物の現物返還が原則である。
しかし,本件では,被告らは,本件新株引受権をすべて権利行使し,本件株式の発行を受け,その後さらに本件株式を売却したため,現物返還は不能であり,被告らは現物返還に代わる価額償還をすべきである。
そして,上記価額償還の性質は不当利得の返還であるところ,受益者が法律上の原因なく代替性のある物を利得し,その後にこれを第三者に売却処分した場合,公平の見地から,受益者は,損失者に対し,原則として,売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うとされる(最高裁平成19年3月8日第一小法廷判決・金融商事判例1272号58頁)。
本件におけるCと被告らの事実上の一体性や,被告スパイススタイルが,本件株式の証券について,執行官保管の仮処分命令が発令され,その執行が不能になった後にも,その旨を認識しながら,本件株式の処分を継続していること(丙10,甲41)等の事情に照らせば,被告らが本件株式の売却により取得した金額が約3億5000万円であるにもかかわらず,株価の下落で約1億円の返還で足りるというのでは,著しく不当である。
したがって,上記最高裁判決に照らし,公平の見地から,被告らは,上記のとおりの本件株式売却代金相当額の価額償還義務を負うと解するべきである。
エ百歩譲って,現物返還が不能の場合の価額償還の基準時を否認権行使時としても,被告らは,否認権行使時のアビックス株式の株価(1株当たり6万9800円)に従い,少なくとも以下の金額を価額償還すべきである。
@ 被告スパイススタイル3769万2000円
A 被告A 3559万8000円
B 被告B 2617万5000円
(被告スパイススタイルの主張)
アアビックスの上場及び平成17年9月27日当時のアビックス株式の株価は認め,その余は不知ないし争う。
イアビックス株式が価額償還の対象となるとの主張は争う。
(ア) 本件新株引受権は,その行使期間を平成16年3月までとするものであり,行使期間満了時点においては,未上場で市場価格がなかった。
新株引受権が株式となるのは,権利者が行使の意思決定及び払込みをしたときに限られる。
特に,新株引受権行使の際に株式が未上場で市場価格が形成されていない場合には,新株引受権行使の意思決定が決定的な要素である。
新株引受権行使の意思決定がされなければ,行使期間の終了と同時に新株引受権は無価値であることに確定するのであるから,この点を捨象する原告管財人の主張は不当である。
(イ) 新株引受権(予約権)の評価は,権利行使期間,取得できる株式の時
価,当該株式のボラティリティー(株価変動の標準偏差),金利等を要
素として算出される。
本件新株引受権は,行使期間が平成16年3月であり,その時点では未上場で時価が形成されていない。
したがって,本件新株引受権の権利行使の意思決定こそが,リスクをとった重要な要因であり,本件新株引受権自体は無価値か低額であった。
(ウ) 原告管財人は,最高裁判所の判決を指摘して,売却価額による価額償還を主張するが,同判決の事案は,当事者間の公平を目的とする不当利得制度についてのものであって,本件のような破産財団の回復を目的とする否認権行使の事案とは明らかに異なり,本件には妥当しない。
(被告A及び被告Bの主張)
アアビックスの上場,アビックス株式の株式分割及びCがその所有アビックス株式を売却したことは認め,その余は否認ないし争う。
イアビックス株式が価額償還の対象となるとの主張は争う。
新株引受権は株式をその引受価額で取得することができる権利であって,株式そのものとは全く性質を異にする。
新株引受権は,行使価格が定められ,一定の行使期間を過ぎると権利を失い無価値となるもので,行使するか放棄するかは権利者の自由である。
また,新株引受権1株がそのまま株式1株となるものでもなく,付与率によって異なる。
原告管財人は,新株引受権を株式と同一に捉え,否認権行使の対象となる新株引受権の贈与によって株式の引渡義務が発生すると主張しており,論理の飛躍がある。

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生活保護開始申請却下取消等請求
裁判所の判断
岐阜県
山県市

退職年金規定
退職年金規定は就業規則としての性質を有するものであるから,退職者には就業規則の適用が考えられない以上,その規定の改廃の効果は当然には退職者に及ばないが,退職時の規定自体に改廃権が留保されている場合には,その規定の適用の結果,原則として,改廃の効果は退職者にも及ぶものと解される。そうすると,原告の退職時の退職年金規定には,第31条で規定の改廃についての定めがあり,退職年金支給開始後の被告の改廃権が留保されていたことから,原則として,改廃の効果が退職者にも及ぶと言わざるを得ない。
しかし,本件廃止等の経過にみられるように,従業員でない退職者には事後的な結果報告がなされるだけであって,事前に意見を述べる機会が保証されていないような場合には,退職者にとって有利不利を問わず,一律にすべての改廃の効果が及ぶとすることは相当でなく,合理的な範囲に限定される,すなわち,改廃権の行使は合理的な範囲に限定されるものと解することが相当である。
そして,その合理的な範囲か否かは,改廃の目的,改廃の内容自体の相当性,改廃によって退職者が不利益を受ける場合にはその程度とその代替措置の内容,改廃によって影響を受ける退職者の対応等によって判断することが相当である。